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O plus E誌 2005年7月号掲載
 
 
HINOKIO
(松竹配給)
      (c)2005 HINOKIO FILM VENTURER  
  オフィシャルサイト[日本語]   2005年5月26日 梅田ピカデリー[完成披露試写会(大阪)]
 
  [7月9日より丸の内ピカデリー2ほか全国松竹・東急系にて公開予定]      
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  CGと実機の見分けがつかないVFXは見事の一言  
 

 監督・原案・共同脚本・ VFXは秋山貴彦で,これが初監督作品である。VFX出身の新人監督のデビュー作で.ロボットが登場し,少年少女の淡いラブ・ストーリーというと,山崎貴監督の『ジュブナイル』(00年7月号)にそっくりではないか。名前も似ている。
 最大の違いは,『ジュブナイル』のテトラは未来からやって来た(普通の)自律型のロボットだが,この映画の H-603はテレプレゼンス型ロボットであることだ。即ち,意志をもって動くことはおろか,環境認識して自律的に行動するロボットでもなく,遠隔地で操縦する人間の身代わりとして行動するタイプだ。この映画では,五感を備えた二足歩行ロボットとして描かれている。母を亡くした自宅に引き籠もる不登校少年サトルの代理で学校にやって来るが,軽量化のため檜材を使っていることから「HINOKIO」という愛称で呼ばれるようになる。
 この映画は,「ロボットの活躍を描いた映画」ではなく,「次世代のコミュニケーションツール」であり,「遠隔操作ロボットを現実社会のインタフェースとして使って人間の心を描く物語」だという。このテーマが成功しているかどうかは後述するとして,この H-603ロボットの描写には相当なエネルギーが注がれている。登場場面も多い。いや,それどころかVFXが素晴らしく,日本のVFXもここまでやれるようになったかと感心した作品だ。
 煉獄,巨大魚,お化け煙突,その煙突に上りながら眺めた光景など, CG/VFXを駆使して描いたシーンが多数登場する。VFX制作には「イマージュ インハウス スタジオ・ザイオン」「リンダ」「アイデンティファイ」などのスタジオの名前が並ぶが,正直言って筆者には全く馴染みのない会社ばかりだ。複数のスタジオが参加しただけにクオリティ的には差があるのは止むを得ず,「お化け煙突」などは余り感心した出来ではない。それでいて『陰陽師』(01年10月号)『スパイゾルゲ』(03年6月号)などと比べて,レベルが違うなと感じるのは,監督がVFXの限界をよく分かっているからだろう。この点では『ジュブナイル』と同じである。言い換えれば,ディジタル技術の何たるかを知らない監督の映画は,中途半端で観るに絶えない表現に陥って失敗する。
 賞讃に値するのは, HINOKIOがCGか実機か全く見分けがつかないことだ(写真1)。このメカ丸出しのデザインと質感から,どう見ても実機としか思えないシーンが多々ある。ところが,普通の観客でもホンダのASHIMOから類推して分かるように,HINOKIOは現状の二足歩行ではあり得ない複雑で素早い動きをする。ロボットのプロであればあるほど,あっと驚くはずだ。これは,CG製のHINOKIOの幾何モデルにMoCap(モーションキャプチャ)データをつけたとしか考えられない。ハリウッドの一級作品であっても大体見分けはつくのだが,このHINOKIOは本当に分からない。陰影の付け方も実に見事で,屋外シーンで僅かに微妙な差が見つけることができるかどうかだ。

 
     
 
 
 
 
写真1 CG製か3D切削マシンで作ったHINOKIOか,全く識別できないほどの出来映え
(c)2005 HINOKIO FILM VENTURER
 
     
 

 その秘密はロボットの製作方法にある。先に電子的にデザインした幾何形状データから 3D切削マシンで実物大のH-603を製造するという,まるで工業製品並みのやり方だ。その一方でこの実機を映画用セット内で撮影し,その画像を参考にCGパーツの表面属性(反射率等)を決定したという。なるほど,それならそっくりに見せられるわけだ。原理はシンプルだが,最終的な画質の調整はそう簡単ではなく,かなり苦労したに違いない。目が肥えているはずの筆者も,ここはCGに違いないと推測して観るしかなかった。
 VFXはハイレベルだし,ゲーム画面のCGも悪くないが,他は詰めが甘く,映画としての完成度は高くない。HINOKIOのデザインはあまり感心しない。二足歩行型に見せるにせよ,MoCapで動かすならデザイン上の自由度はあったはずで,もう少しエレガントにできたはずだ。これだけ登場させるのなら,このロボットの機能説明があってしかるべきだと思うのだが,何もなく,遠隔操作するテレプレゼンス装置にもリアリティがない。常に操作者がいるならキーボード入力で発声させる必要はなく,操作者の声に少し音声変換を施して伝達すればいいはずだ。ロボット工学の専門家の意見を取り入れればずっと良くなったはずなのに,そうした形跡はないのが残念だ。そこがハリウッドとの違いだろう。
 ロボット越しの心の触れ合いというテーマは悪くないが,物語がかったるく,緊迫感が足りない。なぜ少年が父親を嫌うのかが描けていないし,こんな甘ったれたガキを救う必要があるのか腹立たしくなる。中村雅俊の父親役もフニャけているし,ジュンの新しい父親に至ってはもうちょっとまともな人物設定にしろと言いたくなる。救いは,ジュン役の新人,田部未華子の存在感とみずみずしい魅力だろうか。
 この映画の VFXには文句なしに☆☆☆を付けたかったが,その他のマイナスが大きく評点を下げた。ただし,この監督の作品には今後も注目して行きたい。

 
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