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O plus E誌 2010年9月号掲載
 
 
魔法使いの弟子』
(ウォルト・ディズニー映画)
      (C) 2009 Disney Enterprises, Inc. and Jerry Bruckheimer, Inc.
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [8月13日よりTOHOシネマズ 日劇ほか全国ロードショー公開中]   2010年8月4日 角川試写室(大阪)
 
         
   
 
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怪談レストラン』

(東映配給)

      (C) 2010 劇場版「怪談レストラン」製作委員会
 
  オフィシャルサイト[日本語]    
  [8月21日より丸の内TOEI 1ほか全国ロードショー公開中]   2010年8月5日 東映試写室(東京)
 
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  名作短編アニメの実写長編映画化の出来映えは?
 
 

 次なる2本もしっかり元ネタがある実写映画化作品だ。由来も対象観客層も相当に違うが,それぞれCG/VFXのパワーが大いに発揮され,楽しい作品に仕上がっている。辛口評論を旨とする当欄としては,この両作品の長編映画化の姿勢に対して,180度違う苦言を呈したい。映画もCGも愛するがゆえの発言である。
 まず『魔法使いの弟子』は,映画通やディズニー・ファンならニヤリとする題名だ。ディズニー・アニメのお姫様が現代ニューヨークに実写で登場する『魔法にかけられて』(08年3月号)とは関係がない。いや,アニメの主人公が元ネタという点は同じだし,そう言えばネオン輝く夜のNYの街の光景も少し似ている。本作の原点は,短編アニメにクラシック音楽を融合させたオムニバス作品『ファンタジア』(40)中の一編で,魔法使い見習いのミッキー・マウスが起こす騒動を描いた大傑作である。その評判の高さゆえに,8編中でこの作品だけが『ファンタジア2000』(00年2月号)に再録されていた。筆者も,その時に初めて観た次第である。
 製作ジェリー・ブラッカイマー,監督ジョン・タートルトーブ,主演ニコラス・ケイジというトリオは,『ナショナル・トレジャー』(05年3月号)『ナショナル・トレジャー/リンカーン暗殺者の日記』(08年1月号)と同じである。では,ほぼこの2本と似たタッチで,興奮度もスケールも同程度かと言えば,正にその通りだ。その前2作で満足した観客には,同程度の満足度が保証されている。冒険もアクションも満載だが,セックスもドラッグも目を覆うような暴力シーンもなく,健康的なディズニー流ファミリー映画そのものだ。
 魔法界の邪悪な勢力モルガニアンズと闘いながら,紀元740年の世界から現代にやってきた魔法使いバルサザールにニコラス・ケイジ,その弟子に選ばれた気弱な青年デイヴにジェイ・バルチェル,彼が想いを寄せる美少女ベッキーにテリーサ・パーマーという若手コンビを配し,バルサザールの宿敵マクシムはアルフレッド・モリナが演じている。『スパイダーマン2』(04年8月号) でDr.オクトパスを演じた,あの存在感のある悪役だ。
 デイヴの少年時代まではほのぼのとしたペースで進行し,魔法も楽しく描かれ,かつての『ボクはむく犬』(59)『うっかり博士の大発明/フラバァ』(61)『ラブ・バッグ』(69)といったディズニー製の実写コメディ映画を思い出す。特撮の出来も上々だったが,何よりもアイディアが素晴らしく,明るく楽しく,筆者もワクワクして観たものだ。そのまま,若い男女の素朴なラブ・コメディにして欲しかったのだが,10年後の中盤以降はボリューム感たっぷりの魔法使いのバトルに突入する。そのアクションのくどさは,ブラッカイマーの前作『プリンス・オブ・ペルシシャ/時間の砂』(10)と好一対だ。
 魔法合戦だから,全編CG/VFXのオンパレードだ。まずは,正統の魔法パワーを象徴するドラゴンの飾り(写真1)が自由自在に変形し,指輪となってデイヴの指に収まるのを皮切りに,VFXパワーも至るところで炸裂する。炎や火花(写真2),多数の虫の発生(写真3),壁に溶け込んだり,空中浮揚したりはもう誰も驚かない。敢えて当欄としての推奨シーンを挙げるなら,カーチェイス・シーンでのクルマの変形(写真4)と鋼鉄製のワシ(写真5)が飛翔する場面だろうか。最近,ドラゴンやペガサスに乗って空を舞うシーンを何度も目にしたが,重量感を感じさせるこのワシの描写はなかなかのものだった。  師匠の留守中にミッキー・マウスが未熟な魔法で箒を操り,水浸しになる名物シーンは,勿論しっかり再現されている。ただし,単なる1コマに過ぎない。この『魔法使いの弟子』というディズニーブランドきっての題材は,もっと丁寧に扱い,心暖まる映画に使って欲しかった。J・ブラッカイマーの方程式通りの娯楽大作はもう飽きた。このままの路線を踏襲する限り,何を作ってもRotten Tomatoesで40%前後のスコアしか残せまい。

   
 
写真1 質感たっぷりのこの飾りが指輪に化ける
 
   
 
写真2 物理実験室ゆえにこの種の放電が多用されている
 
   
 
写真3 こうした虫の大量発生もVFXの定番の1つ
 
   
 
写真4 このクルマの変身シーンは,実にカッコ良かった
 
   
 
 
 
写真5 いかにも重そうな鋼鉄製のワシが飛翔する
(C) 2009 Disney Enterprises, Inc. and Jerry Bruckheimer, Inc. All Rights Reserved.
 
   
   
  知名度抜群の児童小説の劇場版が登場
 
 

 一方の『怪談レストラン』の原作は,全50巻で累計850万部を売り上げたという児童小説のロングセラーで,小学校低学年の教室には常備されている人気シリーズである。既に昨年秋にTVアニメ化され,Nintendo DSのゲームも登場している。映画通は知らなくても,子供たちには知名度抜群の素材なのである。
 さて,その劇場版での映画化作品は,堂々と「お客様はお子様です!」「アニメになったお化けキャラクターたちに,お母様方も大興奮のようです!」「新装開店!怪談レストランへようこそ」と謳っているから,はっきりと夏休みの母子連れだけが対象のようだ。まず導入部は2Dアニメから入り,しばらくして実写版に切り替わるという設定も観客層に合わせた趣向である。夏休み終盤の公開は,定番の『劇場版ポケットモンスター』『劇場版NARUTO?ナルト?』を見終った後が狙いで,決して『魔法使いの弟子』とは競合しない。ライバルは同じ東映の『仮面ライダーW』あたりだろうか。
 謎の失踪を遂げた妹を探す探偵役を演じるのは,これが映画デビューとなる工藤綾乃。昨年度の国民的美少女コンテストのグランプリ受賞者である。まだ14歳だが,登場人物の学年を中学2年生に設定したのは,彼女の実年齢に合わせたのだろう。同級生役の共演者たちは18〜20歳だから,彼らを中学生に見立てるのはちょっと苦しいところだ。監督は,『パラサイト・イヴ』(97)『シャッター』(08年9月号) の落合正幸。Jホラー界のビッグネームの1人だ。いくらお化けキャラが多数登場するとはいえ,この人にお子様映画を監督せよというのは,ちょっと気の毒だと感じた。
 当欄がそんなお子様映画を敢えて取り上げた理由は,実写パートが大半であり,そこにはかなりのCG/VFXが登場し,かつ野口光一氏がVFXスーパバイザーを務めると聞いたからである。既に当欄で何度も眺めてきたように,同氏が率いる東映アニメーションのVFXチームの仕上げの良さは一級品である。
 ならば,この映画も大人の観賞に耐えるレベルに達していることを期待したのだが,見事にその期待は裏切られた。若手俳優の演技はいうに及ばず,脚本も音楽もすべてがチープであり,クライマックスの盛り上げ方も今イチだ。女子中学生ジュン(剛力彩芽)が劇中で何度も「もう,一体何なのよぉー」と叫ぶが,正直なところ,この金切り声には生理的な嫌悪感すら覚えた。取材でなければ,とっくに映画館を飛び出していたことだろう。
 CG/VFXはといえば,確かに量的にはかなりのシーンで使われている。野口チームの腕が悪かろうはずはないのだが,どれもこれもが安直でプアに見えるのは,キャラの基本デザインのせいだろう。怪談レストランのセットは邦画にしては上々だし,山中に配した外観のデジタル合成(写真6)も悪くない。ところが,ゆうれい尼さんの周りを舞う多数の手首(写真7),紫ババアの両腕(写真8)などはかなり安っぽく見える。CGの腕のせいではなく,そういうデザインなのだ。その最たるものは,解剖模型だ。生身の俳優(田中卓志)にCGを重ねたもの(写真9)だが,技術的には『アイアンマン2』(10年6月号)のアーマースーツの着脱と大差はない。合成には難がないのに安っぽく見えるのは,理科実験室にある模型そのもののクオリティで描かれているからだろう。この解剖模型は,途中で生身の肉体のような質感に変身させ,ダイナミックな動きをさせても良かったのではないか。

   

写真6 怪談レストランの外観(右)。このインビジブルショットの仕上げは上々。

   

写真7 ゆうれい尼さんの周りを多数の手首が舞う(右)<

   

写真8 空中を舞う紫ババアはグリーンバックのワイヤーアクションで撮影
   (左上:背景画像,右上:照明環境を計測,左下:俳優の演技,右下:完成映像)

   
 
写真9 胸から下の解剖模型はCG合成だが,本物通りの質感での描写
(左上:参考にした解剖模型,右上:照明環境を計測,左下:模型役の俳優,右下:完成映像)
(C) 2010 劇場版「怪談レストラン」製作委員会
 
   
 

 あらゆる段階で,お子様映画はこの程度でいいという割り切りが感じられる。幼児に幼児言葉で話しかけているようなものだ。脚本家も監督も,その思い込み(見下し?)の下に作っている気がする。一体,何人のスタッフが本気でこの作品に魂を捧げたのだろう? こういう映画の劇場版こそ,思いっきりスケールアップを図り,大の大人を映画館に向かわせるだけのクオリティが欲しかった。同じく児童文学が原作であっても,『ハリー・ポッター』シリーズのあのクオリティを半分でも見習うべきだ。いや『魔法使いの弟子』に盛り込まれた過剰なサービス精神や長過ぎるアクション場面こそ,この映画に盛り込むべきファクターだ。子供はやがて青年に,大人に成長するのだから,邦画界はこの人気シリーズをもっと豪華に大切に育て上げるべきだったと思う。

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  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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