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O plus E誌 2016年9月号掲載
 
その他の作品の短評
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
   『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』:待ち遠しかった映画だ。今年度アカデミー賞長編アニメ部門のノミネート作品で,各国で多数の賞を得ている。遅ればせながらも,本邦で劇場公開されるのが何よりも嬉しい。アイルランドに伝わる神話を基にしたファンタジーで,シンプルな人物造形が,鮮やかな色彩,美しい音楽と見事にマッチしている。妖精の母と人間の父の間に誕生した兄妹が主人公で,これぞお伽話,メルヘンの世界だ。両親が子供に見せたい映画の代表作となることだろう。ただし,欠点を挙げれば,この素朴な物語で93分間もたせるのは,ちょっとつらい。せいぜい半分の尺で十分だ。最近のフルCG長編アニメを見慣れてきた目には,マカの魔力と戦うクライマックスはもう少し盛り上げて欲しいところだ。となると,3D-CGで描いた方が有利だろう。この映像美は認めつつも,ジブリ流,ディズニー流でも良い作品に仕上がっただろうと思う。
 『健さん』:2014年に他界した高倉健を追悼するドキュメンタリー映画で,国内外の映画監督,共演者,脚本家,付き人等,21人のインタビュー映像で構成されている。マイケル・ダグラス,マーティン・スコセッシ,ジョン・ウー,ヤン・デ・ボンといった顔ぶれの証言から,いかに彼が海外の映画人からも尊敬されていたかが伺い知れる。これだけファンから愛され,かつ生涯に渡って独特の存在感を保った男優は珍しい。改めて観ると,筆者には,仁侠ものに出演する以前の青春スターであった頃の凛々しい姿が最も印象的だった。惜しむらくは,この映画では静止画でしか「健さん」は登場しない。版権の問題があったためだろうが,代表作の名セリフ,名場面を動画として収録して欲しかった。そうでなければ,TVの特番レベルであり,あの銀幕の大スターを映画館で偲ぶための作品としての価値はない。
 『君の名は。』:言うまでもなく,2016年夏の終わりから秋にかけての大ヒット作で,若者向け邦画アニメーションである。8月26日公開だが,興行収入は200億円を突破し,年末でもまだベスト10入りしている。この手の映画には触手が動かず,未見であったが,親しい知人兼熱心な読者から感想を求められることしきりなので,遅ればせながら11月下旬に観た。わざわざ映画館に足を運んだのではなく,海外出張時の機内ビデオでの観賞である。短評を書く以上,往路と復路で2度しっかりと観た。後日Webページを探す読者のために,9月号の短評欄に忍ばせておくことにしよう。2度観たが,大きな感動もなく,さしたる感想もない。この手の映画としては,中の上と言ったところか。若い男女の胸キュンドラマとしてはごく普通で,特に嫌味をいうほどでもない。アニメの絵が格別に美しいかというと,悪くはないが,現在の本邦のアニメ業界の実力からすれば,これくらいは当たり前だろう。ではなぜ大ヒットとなったかといえば,SNSによる噂が噂を呼び,それが雪崩現象を起こし,リピーターも続出しただけのことだと分析する。ストーリーで強いてユニークな点を探せば,タイムスリップ現象と,主人公の男女の心と身体が入れ替わるという現象を同時に入れたことくらいだろうか。それぞれはSF映画なら特に珍しくもないが,普通のアニメ・ファンには新鮮だったのかも知れない。そんな物語は嫌ほど観た当欄の評者としては,タイムスリップが引き起こす面白さ,男女が入れ替わることによるギャクが足りないと感じた。屁理屈でもいいから,不思議な現象が起こる原因やメカニズムの解説も盛り込んで欲しかったと評しておこう。
 『イングリッド・バーグマン~愛に生きた女優~』:言わずと知れた映画史に残る美人女優の真の姿に迫るドキュメンタリーで,生誕100年記念して昨年製作された作品だ。さすがに筆者とてその全盛期を同時代に観た訳ではなく,初めてスクリーンで観たのは1960年代にリバイバル公開された『誰が為に鐘は鳴る』(43)であった。個人所有のプライベート映像が沢山残されていて,私生活の様子も堪能できる。いつ観ても「神々しい美しさ」だ。結婚歴は3回だが,最初の2回で産まれた男女4人のインタビューが何度も登場する。素顔の大女優が語られるのはいいが,同じパターンの連続で少し退屈する。もっとハリウッドや欧州映画界からの証言,撮影の舞台裏も見せて欲しかった。例えば,晩年助演女優でオスカーを得た『オリエント急行殺人事件』(74)のエピソード等が有っても良かったと感じた次第だ。
 『リトル・ボーイ 小さなボクと戦争』:派手なアクションもひねりも,観客を欺くサプライズもなく,実に素直で心温まる物語だ。たまにはこういう映画もいい。舞台は第2次世界大戦中の米国カリフォルニア州の港町で,8歳の小さな少年ペッパー(ジェイコブ・サルヴァーティ)が主人公である。大好きだった父親が徴兵されて戦地に向かい,無事の帰還を願う少年が,司祭に渡されたリストの内容をすべて実行しようとする。物語の展開に厚みを増しているのは,当時敵国人として迫害されていた日系人のハシモト(ケイリー=ヒロユキ・タガワ)との交流だ。素朴な物語ゆえ,結末はほぼ想像できた。涙を誘う大きな感動ではなく,誰もが微笑みながら「本当に良かったね」と声をかけたくなるエンディングだ。ちなみに「リトル・ボーイ」は,殊更背が低かった主人公の愛称であり,広島に投下された原爆のコードネームでもあった。
 『ライト/オフ』:電気を消して暗闇になると浮かび上がる不気味な存在……。原題は『Lights Out』だが,日本人には「オフ」の方がピンとくる。原案は1億5千万回以上のアクセスを記録した約2分半の恐怖映像で,その着想を長編映画化したものだ。「B級ホラー」という言葉が定着しているように,ホラー映画の大半は,中小製作会社の低予算映画なのだが,メジャーのワーナー配給作品はどれも良質のホラーである。『ソウ』『死霊館』両シリーズのジェイムズ・ワンが製作と謳うだけあって,その看板に恥じない出来映えだ。『死霊館』シリーズとはジャンルが少し違うが,家族ものドラマとしても良くできている。ホラーに金髪の美女というのも定番だが,主演のテリーサ・パーマーと心を病んだ母親役のマリア・ベロの呼吸が見事に合っている。謎を追う展開も,決着の付け方も納得できる。
 『神様の思し召し』:イタリア映画で医学と神学がぶつかり合う展開といえば,小難しい映画を想像してしまう。実際は,その真逆の陽気でテンポの良いコメディだ。腕は一流だが傲慢なエリート外科医が,後を継ぐはずの息子が聖職者になりたいと言い出して慌てる。息子が心酔する神父が前科者だと知り,彼の裏の顔を暴こうと行動を起こす……。前半は屈託なく大笑いできるコメディで,主人公の医局や家庭での傲慢ぶりが際立っている。中盤以降,彼が型破りの神父に翻弄され,やがて友情を育んで行く過程で,これはイタリア映画特有の人生讃歌だと気付く。そして,最後は胸にじんと来る結末で締めくくる。邦画だとこうは行かない。コメディは笑えない馬鹿騒ぎになりがちだし,人生を語る映画は辛く,暗いお涙頂戴映画になってしまう。これは国民性の違いなのか,単位面積辺りの太陽光線照射量の差なのか,どうせなら,あの明るさを見習いたいものだ。
 『グランド・イリュージョン 見破られたトリック』:3年前に絶賛したマジック映画の続編だ。大仕掛けのイリュージョンを駆使して大金を奪う犯罪者集団「フォー・ホースメン」が,前作の事件から1年後に再結成され,ハイテク企業の不正を暴く計画を描いている。4人組の紅一点ヘンレイ役のアイラ・フィッシャーが出産のため,ルーラ(リジー・キャプラン)に交替している。彼らを追う刑事ディラン(マーク・ラファロ)は,本作ではより重要な役柄となり,新登場では,彼らのトリックを見破る天才エンジニア役をダニエル・ラドクリフが演じている。何と,あのハリー・ポッター男優が悪役で登場する訳だ。彼の派手な登場場面以外にマジックらしいマジックが登場しないので,前半から中盤は少し退屈だった。そう感じさせておいて,終盤35分間に極上のイリュージョン・シーンが待っていた。大晦日のロンドン市内での街頭マジック・ショーから小型機で大空へ……。観客も見事に騙されるが,爽快だ。
 『超高速!参勤交代 リターンズ』:2年前に公開された前作『超高速!参勤交代』(14)は当欄では紹介し損ねたが,なかなかのスマッシュヒットだった。題名の「超高速!」が斬新だったが,弱小貧乏藩の殿様と家臣が織りなすB級コメディ風の異色時代劇も乙な味つけであった。続編の副題に「リターンズ」とくると,おいおい「バットマン」か「スーパーマン」かよと思うが,しっかり前作は往路,本作は復路という意味を持たせている。湯長谷藩の主君役の佐々木蔵之介,ヒロインの深田恭子,敵役の陣内孝則等の主要キャストはそのままで,前作以上の無理難題と陰謀に立ち向かう……。いくら気さくで領民思いの殿様とはいえ,気恥ずかしくなるようなヒューマニズム,驚くほど典型的な勧善懲悪ドラマは,まさに肩の凝らないエンタメだ。松竹は,このお気楽時代劇を『釣りバカ日誌』のような長寿シリーズに育てるつもりだろうか。その路線も悪くないと思う。
 『オーバー・フェンス』:1990年に41歳で自殺した純文学作家・佐藤泰志が近年再評価され,これが3本目の映画化作品だが,当欄での紹介は初めてだ。職業訓練校に通うバツイチの四十男(オダギリジョー)とキャバクラのホステス(蒼井優)の出会いと愛の芽生えを描いた意欲作で,監督は『味園ユニバース』(15)の山下敦弘。どこかで普通の人生から外れてしまった男たちの描写が巧みで,脚本も演出も秀逸だ。飄々として無欲な主人公を演じるオダギリジョーはまずまずだが,どこか壊れた女を演じる蒼井優は,大人の女優に成長しつつあると感じる。訓練校の同僚・代島を演じる松田翔太も,兄(松田龍平)同様,助演でいい味を出す俳優になってきた。監督は違えど,函館3部作のすべてを撮影しているカメラマン・近藤龍人は,明暗の使い分けが上手い。ただし,本作はヨーロピアンビスタ・サイズでなく,シネスコ・サイズで撮っていれば,もっと躍動感のある映像になったのにと感じた。
 『エル・クラン』:ヴェネチア国際映画祭の銀獅子賞受賞作品。時代は1980年代前半のアルゼンチンで,実際にあった身代金誘拐事件を描いたクライム・ムービーだ。元外交官の父親,子女もその恋人も皆美形で,何一つ不自由なく見える裕福な一家のプッチオ家が,富裕層だけを狙った誘拐ビジネスに手を染める過程と計画が破綻する顛末を描いている。政情不安な時代とはいえ,権力者がこの事件を知りながら見逃していたことに,まず驚く。父親の権限は絶対で,その指示に服従する子供たちの従順さも意外だった。最後の驚きは,殺人まで犯した実行犯でも無期懲役にしかならない法制度である。主犯の父親は,やがて仮釈放され,出所後に弁護士資格まで得たという。いずれも現代日本の我々には,ちょっと理解できない社会制度と価値観だ。
 
  (上記の内,『君の名は。』は,O plus E誌には非掲載です)  
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