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O plus E誌 2018年9・10月号掲載
 
その他の作品の短評
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
   『パパはわるものチャンピオン』:父親は悪役プロレスラーで,それを息子に明かせずにいたが,やがてバレてしまい…という内容だ。「悪者」でなく平仮名表記で分かるように,幼児用絵本の実写映画化作品である。主演の棚橋弘至は現役プロレスラーで,映画・TVドラマ出演経験はあるが,やはり素人芸だ。子役(寺田心)も格別の演技ではない。そのお子様映画をマジで見入ってしまうのは,お子様視点で観るためか,父親の心境になって感情移入してしまうからだろう。監督・脚本は藤村享平。初めて聞く名前だが,素直で,力強い演出力だ。怪我でかつての栄光の失った落ち目のレスラーが,我が子のために,Z-1なる最強レスラー決定戦に出場する。ならば,優勝まで突き進むのかと思いきや,現実は甘くない。ここは敗者の美学でなく,もっとハッピーエンドでも良かったかと感じた。日頃プロレスに興味ないが,技の解説には感心した。一度生で観たくなった。
 『死霊館のシスター』:人気のホラーシリーズの5作目で,前作での予告通り,時代は1972年,ルーマニアの修道院が舞台である。これまでは古い家に棲み着く悪霊退治だったのに,山の中の古城を利用した大きな修道院という設定なので,色々な意味でスケールアップし,VFXも多用されている。ヴァチカンから調査のため派遣された神父と見習いシスターが主役だが,後者を演じるのは新進女優のタイッサ・ファーミガ。ノーブルな顔立ちで白い尼僧姿が似合う。本シリーズの華,ヴェラ・ファーミガの娘かと思ったが,21歳年下の末妹らしい。恒例のキリスト教の悪魔払いのルールに従った描写だが,キリストの血を巡る冒険ものの趣きもあり,まるで女インディ・ジョーンズだ。アナベル人形は出て来ないが,クレジットされてないウォーレン夫妻が最後に登場する。ファン・サービスか,シリーズの一作と名乗るための策か,詳しくは書けないがお愉しみに。
 『世界が愛した料理人』:よくある美食ものドキュメンタリーで,原題は「Soul(魂)」。先人から受け継いだ伝統と新しい挑戦マインドを併せ持つ料理人を取り上げ,当代きっての名店を巡る。取材対象の中心はスペインと日本だ。主役はスペインで最年少のミシュラン三ッ星シェフとなったエネコ・アチャ・アスルメンディで,バスク地方で大自然に囲まれた彼の豪華なレストランから,この魂の旅は始まる。同国カタルーニャ地方を経て,舞台は日本に移り,お馴染みの銀座「すきやばし次郎」と六本木の「龍吟」が登場する。他にも三ッ星店が紹介され,景色,厨房,料理哲学,味や飾り付けに関する評価が語られる。ビジュアル的にも優れていて,まさに眼福であると思いつつ,次第に疑問が生じた。極め付きは,会員制の日本料理店「壬生」である。この店を愛でる姿勢はまるで宗教であり,これは料理人同士と料理評論家だけが愛する「世界」ではないかと。
 『クワイエット・プレイス』:最近観た中で最も優れたサスペンス・スリラーだ。「音を立てたら、即死。」というので,試写会場は完全に同化し,咳払いも靴音も全くなかった。パニック映画として流れも結末も標準的だが,設定がユニークで,アカデミー賞音響効果賞ノミネートは確実だろう。主演はエミリー・ブラント,監督・脚本・製作総指揮が,実の配偶者のジョン・クラシンスキーというので,家族を守るために施した仕掛けが一層味わい深い。加えて,先天性聾唖者の長女と臨月の母親を登場させたのが上手い。映画通なら,個性的な顔立ちの長女が『ワンダーストラック』(18)のあの少女だと分かっているから,余計にリアリティが増す。「恐怖の正体は明かすな」という箝口令なので書けないが,老舗ILM制作のCG造形物が素晴らしく,同じ脚本でM・ナイト・シャマランが監督なら駄作に終わっただろう,とだけ記せば,当欄の愛読者には分かるだろう。
 『太陽の塔』:芸術家・岡本太郎の代表的建造物「太陽の塔」の内部展示が,今年48年ぶりに再開された。本作は2時間近いドキュメンタリーで,総勢29名の美術研究家や関係者が,太郎の偉大さと時代を超越した人間性を再評価している。1970年の大阪万博と時代背景,太郎のフランス留学,芸術家達との交流等が紹介され,縄文文化への畏敬の念も語られる。筆者は団塊の世代で,大阪万博へは5~6回行ったが,当時は単に奇妙で巨大なオブジェとしか思わなかった。岡本太郎への興味は,美術館ができ,大壁画「明日の神話」が発見された頃からだ。まさに平均的日本人の関心度だろう。本作の監督は,1976年生まれの関根光才。万博世代でない映像作家が,我々の後を追って「岡本太郎の世界」を追体験し,太郎が「太陽の塔」に込めたメッセージを平均的日本人に伝えてくれる。願わくば,今回の内部展示再生工事の模様を,もっと盛り込んで欲しかった。
 『イコライザー2』:デンゼル・ワシントン主演とアントワーン・フークア監督作のクライムアクションの2作目である。ハリウッド版『必殺シリーズ』とでも言うべき勧善懲悪の痛快劇の前作で,「是非シリーズ化して欲しい」と書いたが,その願いが叶った。19秒で世の不正を抹消する元CIA工作員のロバート・マッコールは,新しい町でタクシー運転手として世相を観察し,仕事人として悪を退治していた。この前半が前作同様に痛快だ。ところが,唯一の理解者である元上司のスーザンが何者かに殺される。襲撃者が昔のイコライザー仲間であることを知ったマッコールは,最大級のハリケーンの中で,同等のスキルをもつ彼らとの死闘を繰り広げる。この終盤の大嵐の中での闘いが斬新で,今までになかったバトルのパターンだ。マッコールが,画家を目指す黒人青年マイルズに目をかけ,陰に陽に彼をサポートする姿が一服の清涼剤になっている。
 『あの頃,君を追いかけた』:馬鹿騒ぎを繰り返す男子高生とクラス1の秀才で美人の女子高生のラブストーリーで,平均的キラキラ映画よりもかなり出来がいい。それもそのはず,アジアで大ヒットした2011年製作の台湾映画をリメイクしている。6月公開の『50回目のファーストキス』同様,原典をかなり忠実に再現し,大事なシーンはセリフもアングルもそのままだ。じゃんけん後出しだから,下品極まるシーンを割愛し,各人の進路,親の職業等は日本化しているので,その分洗練されている。ただし,自宅では全裸で過ごす父子や,台湾風のギャグはそのままだ。難点は,主演の山田裕貴が全く高校生に見えないことだ。一方,ヒロインは「乃木坂46」の齋藤飛鳥。初々しく,医学部を目指す優等生で男子生徒の憧れという役に相応しい。台湾版のミシェル・チェンも美形であるが,当時28歳だった。やはり高校生を演じるには,20歳前後までであって欲しい。
 『LBJ ケネディの意志を継いだ男』:ケネディやニクソンはよく扱われるが,その間の米国第36代大統領リンドン・B・ジョンソンを描いた映画は殆どない。LBJという略称も初めて知った。前後2人に比べて劇的な出来事がなく,地味な存在であったためだろう。本作は,南部テキサス州の出身であったのに,ケネディの政策を引き継いで公民権法を成立させた業績を讃えている。彼の院内総務としての調整能力の高さ,政敵ボブ・ケネディやR・ラッセル上院議員との対立等,時代背景や政治論争の描写が巧みだ。既視感のあるダラスの狙撃事件現場とLBJを取り巻く政治情勢の場面を交互に織り交ぜる演出も上手い。監督は名匠ロブ・ライナーで,LBJ役はウディ・ハレルソン。本来容貌は似ていないが,太らせ,老けさせ,頬と顎のメイクで似せている。もう少し身長が欲しかったところだ。40年前の製作であれば,ジョン・ウェインが適役だったことだろう。
 『教誨師』:死刑囚と面談し,宗教教誨活動を行う牧師・佐伯役は,去る2月に鬼籍に入った名脇役の大杉漣。本作は,彼の初プロデュース作品で初主演作というから,文字通りの貴重な遺作である。物語はほぼ拘置所の面会室内での会話で,典型的なワンシチュエーション・ドラマだ,ホームレス,ヤクザ,大量殺人者の若者等々,一癖も二癖もある老若男女6人の犯行理由,面会態度は,現場関係者への徹底取材なくして書けないと思われる。とりわけ,死刑執行直前の受刑者の描写には息を飲む。監督・脚本の佐向大は,死刑執行に立会う刑務官を描いた『休暇』(07)の脚本担当だったと知って納得した。元ヤクザの組長を演じる光石研の迫力,珍しく眼鏡も髭もなしで登場する古舘寛治も印象的だったが,驚いたのは饒舌な関西人熟年女性役の烏丸せつこだ。筆者らが胸をときめかしたクラリオンガールは,今やあの砒素カレー事件犯のオバチャンそっくりだった。
 『日日是好日』:本作の試写を観たのは,7月中旬の日中38~39度が続く灼熱の日々の頃で,思わず表題の「好日」を「猛暑」に書き換えたくなった。ところが,試写室の冷房は強力であり,この純和風の映画も実に爽やかで,心地よかった。前半はさしずめ「茶道入門」であり,次第にテーマは「人生讃歌」「一期一会」へと移る。ゆったりとしたペースで,特に大きな出来事もなく,劇中では24年の時が過ぎる。主演は黒木華。いま最も和服が似合う女優だろう。共演は,共に茶道教室に通う従妹役の多部未華子と茶道の先生役の樹木希林だが,近作にも増して樹木希林が絶品だ。癌の宣言以来随分経つが,今も元気で,ますます味わい深い。しかも自然体で,この役は彼女しかできない。監督は『まほろ駅前』シリーズの大森立嗣。映像は美しい。年中いつ見てもいいが,紅葉と雪景色の光景も欲しかった。
 『エンジェル,見えない恋人』:現実には有り得ない,映画ならではのラブストーリーだ。この「見えない」には2つの意味がある。主人公の少年エンジェルは生まれつきの透明人間で,他人の目には見えない。一方,彼と恋に落ちる少女マドレーヌは,視覚障害者で目が見えない。文字通り,2人は手探りの恋だったが,やがてマドレーヌが手術を受けて視力を取り戻し,エンジェルの姿を探す……。所詮童話と考えればいいのだが,エンジェルは母の死後,数年間どうやって暮らしたのか,2人の結婚を彼女の両親は反対しなかったか等々,余計なことを考えてしまうのは,なまじっかリアルな描写が多かったからだろう。終盤の「透明だから,マジックショーで生計を立てる」などという下世話なセリフも夢を壊してしまう。マドレーヌの裸身は美しく,とりわけラストの水中シーンが美しい。この映画は,絵本のようにフルCGで描いた方が成功していたと思う。
 『デス・ウィッシュ』:チャールズ・ブロンソン主演の『狼よさらば』(74)のリメイク作である。当時しっかり観たはずだが,全く内容は覚えていない。主演男優を換えてシリーズ化され,5作も作られたということは,大人気作で当時の痛快アクション作品の代表格だったのだろう。職業は設計士から外科医へ,舞台はNYからシカゴへと変更されているが,主人公名も原題も同じだ。スマホが重要場面で多用されたり,TVでなくSNSが噂の流布の中心となるなど,現代風にアレンジされている。上記『イコライザー2』と同じ日に観たが,両作はまさに相似形で,市井のヒーロー待望論が底流にある。違うのは,主人公が元CIA工作員でなく,一般市民という点だ。その一市民が,警察力を当てにせず,悪人を懲らしめ,銃の力で復讐を果たす。時節柄,銃犯罪社会の問題点を指摘しているが,結局は全米ライフル協会推奨映画のように見えるのが気掛かりだ。
 『ハナレイ・ベイ』:さほど好みでないのに,ついつい出演作の大半を観てしまう女優がいる。洋画ではエミリー・ブラント,邦画では本作の主演の吉田羊だ。原作は村上春樹の連作短編集「東京奇譚集」の一編である。熱烈ファンが多いのは知っているが,筆者は苦手だ。食わず嫌いではなく,何度か試食で口を付けたが,すぐ止めた類いである。本作は,夫に死別し,一人息子がハワイでサメに襲われて落命したため,その後10年間,毎年その海岸で数週間過す女性の姿を描いている。監督・脚本は『トイレのピエタ』(15)の松永大司。村上文学の信奉者が自己流で映画として精一杯飾った感じだ。喪失感と人生への倦怠感の中で生きる女性を,吉田羊が好演している。ハワイの美しい自然,選び抜かれた音楽は,小説では味わえない魅力だ。本作を観て,少し春樹文学に再挑戦しようかとも思ったが,やっぱり止めた。あの文体よりも,こうした映画化作品の方がいい。
 『マイ・プレシャス・リスト』:2016年のトロント国際映画祭出品作だが,こうした青春映画を探し出して来て,本邦公開してくれるのは嬉しい。主人公は,人嫌いで,「コミュ力」が徹底的に欠如していて,ニューヨークのアパートで引き隠り生活を送っている19歳の少女キャリー(ベル・パウリー)だ。彼女がセラピストの指導を受け,1つずつ課題をこなして行く様を描いている。最後に,苦手だった恋も成就するので,ある意味で平凡なラブコメディなのだが,ユニークなのは彼女がIQ185の天才少女であり,飛び級を重ね18歳でハーバード大学を卒業したという設定である。金魚を飼い,チェリーソーダを飲み,新聞の出会い広告でデートの相手を探すという何でもない展開が,活気あるNYの街の風景と重なるのが楽しい。別項に記した音楽が,この明るさに見事にマッチしている。望むらくは,もっと天才パワーの発揮シーンが欲しかった。
 『旅猫リポート』:徹底した愛猫家のための単純な映画だろうと想像したが,いい意味で予想外だった。猫を犬に置き換えても物語は成立する。交通事故で傷ついた野良猫を,猫好きの青年が拾って5年間を過ごす。ある事情から新しい飼い主を探して日本全国を旅するロードムービーである。原作は人気作家・有川浩の同名小説で,数々の文学賞の候補作となったように,物語の骨格がしっかりしていた。ペットものとお涙頂戴の難病ものを上手く組み合わせた上に,旅路の美しい光景が映像作品ならではの付加価値を与えている。主演の福士蒼汰をはじめ,若手俳優の演技は稚拙であったが,猫や犬の名演技がそれを補っていた。ナレーションだけだが,猫の声(高畑充希)が付されていると,CG製の動物キャラに慣れたせいか,一瞬どんな演技でもできるかと思ってしまう。コトリンゴ担当の音楽が絶品だった(サントラ盤は間に合わなかったので,後日紹介する)。
 『嘘はフィクサーのはじまり』:久々のリチャード・ギア主演作だが,「今の日本に贈る忖度悲喜劇」だそうだ。見どころは2つある。いつもスマートな彼には珍しく,くたびれた初老のユダヤ人を演じている。政財界のコネを利用するフィクサーで,詐欺師とは紙一重の存在だ。もう1つは,この映画を通して,ユダヤ人の人脈形成術,米国とイスラエルの関係,セレブ達の利権構造等がよく分かることだ。政治,経済,宗教が複雑に絡み合った世界という触れ込みが実感できる。合成のカメラワークも印象的だ。スマホが猛威を振るう描写は,反面教師的な教訓を与えるためだろうか。ただただ展開,会話に感心するが,結末がほろ苦い。プレイバックして,もう一度観たくなる。裏口入学,支援金,株の空売り…,まさに忖度の塊りだ。配給会社は,森友問題を彷彿とさせる人脈構造だと言いたいのだろうが,日米では「忖度」の種類や意図が少し違う気もした。
 『ライ麦畑で出会ったら』:「出会ったら?」と問われたら,「そりゃ,捕まえるしかないでしょ」と答えるしかないが,主人公がしっかり彼女も人生の好機も捕まえる爽やかな青春映画だ。言うまでもなく,青春小説の金字塔「ライ麦畑でつかまえて」にまつわる物語だ。同作に感動した高校生のジェイミー(アレックス・ウルフ)は,同作を基にした脚本を書き,舞台劇上演の許可を得るため,隠遁生活を送る作者のJ・D・サリンジャー(クリス・クーパー)の居宅を探す旅に出る。演劇サークルで知り合った女子高生ディーディーが同行するが,彼らのぎこちない恋物語の展開が初々しく,微笑ましい。監督・脚本は,TVドラマの脚本家で名を成したジェームズ・サドウィズ。これが初長編映画だが,完全に同監督の体験談であり,満を持しての映画化のようだ。実際にサリンジャーに会って,人生で歩むべき道を教えられた青春の想い出が目一杯込められている。
 『ビブリア古書堂の事件手帖』:原作は三上延のライトノベル・シリーズで,極度の人見知りの美人古書店店主が客が持ち込む古書の謎を解く探偵ものだ。現在第7巻まで刊行され,本作は第1巻の1話と4話を繋いだ脚本で,夏目漱石の署名入りの「それから」と太宰治の「晩年」初版本が登場する。前半は,青年・五浦大輔(野村周平)が持ち込んだ前者から,店主・篠川栞子(黒木華)が彼の祖母(夏帆)の秘密を解き明かす。後半は,栞子のもつ希少本が,「人間失格」の主人公名「大庭葉蔵」を名乗る人物に狙われる事件が起こり,大輔が犯人と闘う。監督は三島有紀子で,全編で本への愛が感じられる。古書店の想定所在地は北鎌倉駅裏だが,ロケは鎌倉市全体で行われ,観光映画の趣きもある。SASの原由子が歌う主題歌「北鎌倉の思い出」が,この映画のトーンにぴったりの余韻を残す。どうせなら,劇中で桑田佳祐の「栞のテーマ」も流せば良かったのに。  
 
   
     
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