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O plus E 2019年Webページ専用記事#2
 
その他の作品の短評
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
   『ブラック・クランズマン』:今年のアカデミー賞作品賞部門ノミネート8本の中で唯一未見だったので,公開日翌日にシネコンに足を運んだ。6部門にノミネートされ,色々な意味で『グリーンブック』(19年Web専用#1)と比較される存在だった。脚色賞と脚本賞を分け合ったものの,助演男優賞,作品賞では負けた。ライバル作品の受賞に露骨に不快感を示したスパイク・リー監督が,拗ねて授賞式会場から出て行こうとしたが,途中退出禁止で引き戻されたというエピソードが伝わって来ている。相変わらず闘争心剥き出しで,大人げない人物だ。本作の時代設定は1979年で,コロラド州コロラドスプリングスが舞台である。同地で初めて黒人警察官に採用されたロン・ストールワースの自伝に基づいて脚色している。主人公のロン役に抜擢されたのは,監督の親友デンゼル・ワシントンの息子のジョン・デヴィッド・ワシントンだ。白人至上主義の結社KKKに対して,白人刑事のフリップ(アダム・ドライバー)とのコンビで9ヶ月間に渡る潜入捜査を行い,爆弾テロを防ぐことに成功する。こちらはバディものという感じはしないが,白人・黒人のコンビ,コメディ・タッチという点でも『グリーンブック』と対比される。潜入捜査の緊迫感,終盤のサスペンス演出はよくできていた。さすが「脚色賞」だ。それだけでいいのに,映画冒頭と潜入捜査終了後に付されている差別問題関連の報道映像が余計だ。スパイク・リーらしいが,これではプロテスト映画,メッセージ映画の印象しか残らない。もったいない。『グリーンブック』に負けたのも当然だ。
 『イメージの本』(評点なし) :あのジャン=リュック・ゴダールの最新作である。言わずと知れた1960年代に映画界に革命を起こした仏ヌーベルバーグの旗手である。現在88歳で,まだ映画を撮っていたとは知らなかった。クリント・イーストウッドと同年齢であるから,不思議ではないのだが,とっくに過去の人だと思っていた。学生時代に,彼の新作を何本か観た覚えがある。所謂進歩的文化人のお気に入りの監督&映画だったが,全く面白く感じなかった。学生時代ゆえ,左翼系作家の著作を多数読み,絵画や演劇も前衛作品を沢山観たのだが,映画だけは面白さ重視で,アートシアター系は苦手だった(食わず嫌いだった訳ではない)。昨年,彼の2番目の妻アンヌ・ヴィアゼムスキーの自伝を映画化した『グッバイ・ゴダール!』(28年7・8月号)を観て,あのゴダールもこの程度の人物だったのかと再認識した。さて,4年ぶりにメガホンをとった本作だが,従来通りの監督・脚本・編集の他に,ナレーションも自ら担当している。普通の劇映画ではなく。既存の「絵画」「映画」「文章」「音楽」の膨大なアーカイヴの中から,彼好みのシーンやフレーズを切り出し,それらをコラージュしている。現代の暴力・戦争・不和などに満ちた世界に向かっての彼のメッセージということらしい。全5章からなるオムニバス形式で,彼のエッセイのようなものとも言えるし,映像的落書き帳とも思える。当欄の評価は,過去3度しかやっていない「評価なし」とした。今回は,敬意を払って軽々しく評点をつけないのではなく,普通の映画の物差しでは測れないので,採点放棄したに過ぎない。カンヌ国際映画祭では,最高賞「パルムドール」を超越した特別賞の「スペシャル・パルムドール」を受賞という。何だ,カンヌの審査員連中もまともに評価せずに,神棚に祭り上げたのか。当欄がここで何と言おうと,ゴダール信奉者たちは本作の細部まで観て,その解釈に没頭し,崇めることだろう。そこまでではなく,著名監督の最新作ゆえ興味をもったという一般映画ファンには,観る価値はないとは言わないし,止めはしないので,ご自由にとだけ言っておこう。
 『映画 賭ケグルイ』:題名だけで,キャンブル中毒がテーマだと分かる。生徒全員がギャンブルに没頭し,生徒会がこれを管理するという私立高校が舞台だ。ギャンブルの成績で階級が決まり,男女高校生が弱肉強食のギャンブルバトルを繰り広げる。呆れはするが,食肉種や無差別殺人鬼などを平気で描くコミックが原作だから,今更驚かない。所詮マンガだ。それでも,アニメ,TVドラマ,小説化されているからには,結構人気があるのだろう。蛇喰夢子,桃喰綺羅莉,歩火樹絵里など,奇妙な名前のオンパレードで,カードゲームのルールも手が込んでいる。ゲーム映画の面白さがある展開を期待したが,脚本はまずまずの出来映えだった。原作者も参加して,映画ゆえのオリジナルストーリーにしたとのことだ。それでも,大きな欠点が2つある。皆似ていて,若手女優の区別がつかない。映画が中盤まで進んで,ようやく髪形で見分けられるようになった。彼女らが,目を剥き,嬌声,怒声をあげるシーンの連続には参った。居酒屋で,当たり構わず大声を張り上げる若者そのものだ。演技力以前の問題で,これが若者文化だと思って演出しているのなら,監督(英勉)は映画人としての基本姿勢を考え直すべきだろう。
 『ドント・ウォーリー』:米国の風刺漫画家ジョン・キャラハンの自伝を基にしたドラマだ。彼はアルコール中毒の挙句に,自動車事故で四肢が麻痺して車椅子生活を余儀なくされるが,やがて自暴自棄の生活から立ち直り,持ち前のユーモアを発揮した強烈な風刺漫画を描くようになる。故ロビン・ウイリアムズが映画化を熱望した作品で,盟友のガス・ヴァン・サント監督が遺志を継ぎ,20年來の企画の実現に漕ぎ着けたという。故人に代わって主人公を演じるのは,ホアキン・フェニックス。結構癖の強い俳優だが,本作では少し控えめで,随所でロビンが乗り移ったかと思わせる表情を見せる。監督はドキュメンタリー風で描いたというだけあって,本人の独白,禁酒会でメンバー達が発言するシーンは,まるでインタビュー映像のようだった。アルコール依存症からの脱却,自己憐憫や自己欺瞞との戦い,母親への思いを綴る中で,人間の繊細さや冷酷さ,登場人物の人生への希望や死生観を在りのままに描いたという。残念ながら,評者はこの映画を好きになれなかった。主人公か周りの人々から愛されているらしいことは読み取れるが,感情移入できなかったし,感動することもなかった。これは,筆者がアルコール依存症になることは有り得ず,かつこの風刺漫画家の作品を知らなかったためだろうか。この映画は,主人公の漫画家に対してよりも,ロビン・ウイリアムズへの追悼の意が強いように感じられた。
 『ラ・ヨローナ 泣く女』:「『死霊館』シリーズのジェームズ・ワン製作のホラー新作」との触れ込みだ。「ジェームズ・ワン製作の『死霊館』シリーズの新作」ではない。ということは,同シリーズの一作ではなく,自らはメガホンを取らず,無名の監督を起用しているということなのだろう。それなら,メジャーのワーナー作品であっても,クオリティがかなり落ちるのも止むを得ない。と予想したのだが,どうしてどうして,かなり見応えのあるホラー作品に仕上がっていた。ネタ的には,中南米に昔から伝わる都市伝説の怪談「ラ・ヨローナ」を題材にしているという。言わば,清水崇監督か中田秀夫監督が製作に回り,若手監督に「四谷怪談」か「番町皿屋敷」を撮らせ,大手の東宝ルートで配給するような企画だと思えばいい。本作の時代&場所設定は,1970年代の米国ロサンジェルスで,主人公はソーシャルワーカーで2児の母のアンナだ。約300年前にメキシコで,我が子2人を溺死させてしまったことを嘆き悲しむ女ヨローナが,その呪いで後世の別の子供たちを水辺に誘い込み,溺死させるという設定である。家に取り憑くのではなく,彼女の泣き声を聞いた人間に取り憑き,水のある場所に出現する。川や湖だけでなく,バスルームやプールも危ない場所に拡大解釈している。これを,いつもの洋風ホラー,即ち,キリスト教の悪魔払い儀式に基づき,悪霊と戦う物語に仕立てている。元神父の悪霊退治の仕掛けがやや大げさだが,物語の進行に無理がなく,クライマックスの盛り上げも満足できる。目立った斬新さはないが,基本形がしっかりできている感じだ。『死霊館』シリーズ扱いではないものの,一瞬だが,同シリーズのシンボルであるアナベル人形もカメオ登場する。ファンへのサービスシーンだ。2人の子供を守ろうとする主演のアンナ役は,『グリーンブック』(19年Web専用#1)で主人公の妻役を演じていたリンダ・カーデリニだった。これがメジャー作品での初主演のようだ。監督は,J・ワンが絶賛する新鋭マイケル・チャベス。かなりの演出力で,なるほど御大が太鼓判を押すだけのことはある。新作『死霊館3』(仮題)のメガホンも任されているらしい。これは楽しみだ。それとは別に,『ラ・ヨローナ』シリーズを設けるのも有りかなと思える出来だった。
 『初恋~お父さん,チビがいなくなりました』:原作は西炯子作の女性コミックで,題名は副題の「お父さん,チビ…」だけなのだが,この実写映画では「初恋」を冠したところに大きな意味がある。シルバー世代のラブロマンスで,倍賞千恵子と藤竜也の初共演というだけで,大いに惹かれた。ゆったりとした流れの何の変哲もない老夫婦の日常生活から始まる。やがて愛猫のチビが失踪してしまうことは題名から予想できたが,50年連れ添った妻が夫に離婚を申し出るというから,これは一大事だ。主人公の夫妻は74歳と70歳の設定である。筆者の家庭の3年後の姿だ。この世代の亭主族には耳の痛い話の連続で,我が胸に手を当てて身を小さくすることだろう。「こんな夫婦になれたら」とのキャッチコピーがあるから,いや,なくても,結末は容易に想像できる。問題はそこに至る夫婦や3人の子供たちとのやり取りだ。監督は,「毎日かあさん」(11)「マエストロ!」(15)の小林聖太郎。人情の機微を描くのが上手い。倍賞千恵子といえば,山田洋次監督作品しか思い浮かばない(最近へ結構,助演で多数の作品に出演しているのだが)。このテーマは,同監督の『家族はつらいよ』(16年3月号)と同テーマだ。同シリーズは喜劇基調で,ドタバタ劇も盛り込まれているが,本作にはそうした遊びはなく,もう少しシリアスだ。丁度,山田監督作品の『男はつらいよ』シリーズと,『家族』(70)『故郷』(72)『遙かなる山の呼び声』(80)等の作品群との関係を思い出す。彼女の夫役は,いつも不器用で朴訥な男だが,本作の藤竜也は,前田吟や井川比佐志よりも,高倉健のイメージに近い。この2人の組み合わせで,もう何本か観てみたくなった。
 『ホワイト・クロウ 伝説のダンサー』:当短評欄では,音楽家,画家,写真家,デザイナー等の芸術家を描いた作品を積極的に取り上げている。本作の主人公は,20世紀後半の世界のバレエ界を牽引した伝説のダンサー,ソ連出身のルドルフ・ヌレエフである。インタビューや実演シーンを収めたドキュメンタリーではなく,彼の半生を描いた伝記映画だ。既に鬼籍に入った個人なので,生涯を描いているのかと思ったが,1961年の初の海外公演時に,フランスに亡命した事件の顛末を克明に描いている。当時23歳である。カットバックを多用し,鉄道の車中で生まれたこと,幼少期の母との想い出,強烈な個性で頭角を表す様子などが描かれているが,亡命後の華麗な活躍は全く扱われていない。勿論,バレエ・シーンは何度も登場するが,本作は芸術映画というより,亡命を決意し,決行するまでを描いたサスペンス映画である。東西冷戦の真っ只中,芸術交流での海外公演にも逐一KGBの監視がつく。そんな窮屈なソ連政府の圧政下で,パリでの開放的な生活や西側の文化人・芸術家との交流に魅せられて行く青年の心情が見事に表現されている。監督は,名優レイフ・ファインズ。最近は『ハリー・ポッター』シリーズの敵役ヴォルデモード卿や007シリーズでの最新のM役の個性的な役柄が目立つが,かつては『イングリッシュ・ペイシェント』(96)『ナイロビの蜂』(06年5月号)『愛を読むひと』(09年6月号)等での知的な役柄,抑えた演技が光っていた。本作では,その印象に近い役柄で俳優としても登場し,主人公のソ連でのバレエ教師役を演じている。監督としての手腕は,20年来の構想と言うだけあって,徹底したリアリズムの追求が目立った。1961年当時のパリの街や市民の服装の再現は言うまでもなく,パリ・オペラ座やレニングラード(当時)のバレエ劇場の外観,エルミタージュ美術館内の名画まで,しっかり本物を見せてくれる。きちんと英語,フランス語,ロシア語が使い分けられているのも嬉しい。そして,最大の成功要因は,主人公ヌレエフ役に抜擢したオレグ・イヴェンコの起用である。踊れることを第一とし,演技未経験の現役ダンサーを選んだというが,躍動感溢れるプロの踊りと意志の強そうな面構えの組み合わせが,本作の主人公に相応しいと感じた。
 
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